全員、松田優作。
8月も後半、世間では残暑といわれるこの時期になると、道を歩くにも細心の注意を払わなければいけない。
私がこの世でG(読売巨人軍ではない)の次に嫌いな生物、SEMIの死骸が転がっているからである。
ジリジリジリジリー!
バチバチバチバチー!
まるでコントロールを失った戦闘機のように、街灯の周りを右往左往、所構わず体当たりをかまし、阿鼻叫喚しながら死んでいく。
私はいつもその様子に怯えながらも、これ以上ない蔑んだ視線を浴びせる。
「…老衰なのに暴れて死ぬかよ」
そう心で呟きながら。
誰かに毒でも盛られたならまだわかる。
だが蝉たちはほぼ100%、寿命を迎えて死ぬのである。
人間ならば老衰。家族に見守られながら、おとなしく「大往生」といったところだ。
それをなんだ。
あっちでジリジリー!
こっちでバチバチー!
そっちでレロレロレロー!!
全員死に際松田優作かよ。
「なっ、、、なんじゃこりゃ〜〜!?」
と言わんばかりに壮絶な最期を気取っちゃって。
教えてやるよ、寿命だよ!
あとはあれ。近年話題のライフハック。
蝉が転がっているとき、「脚を開いてたら生きている」「脚を閉じていたら死んでいる」というアレに物申したい。
うちの駐輪場の入口にやつが転がっていたときに、あれを試そうとしたことがある。なぜなら、やつが死んでいることを確認しないわけには、チャリを止めようにも怖くて通れないからだ。
私は意を決した。気配を消し、深呼吸をして、そ〜〜〜〜〜〜っと、仰向けに転がっている蝉氏の上から覗きこ、、、めない!
おそろしい!
足が開いてるかどうか判別できる距離まで、そもそも顔を近づけられない!
もしやつが死んだふりをしていて、私の気配を察し、ここぞとばかりにジリられたらどうするんですか?
責任とってくれるんですか?
心臓が止まって死体が隣にひとつ増えるわ!
そのときは、脚を閉じてたら死んでますが、脚を開いてたら気絶してるだけですので。
お気をつけください。
私からは以上になります。
ていうか、 残暑お見舞い申し上げます。
【重要なお知らせ】
しばらく旅に出ます。
誰も私を知らないところへ。
探さないでください。
なぜなら、やってしまったからです。
4年に1度あるかないかの大きなドジを、本日やってしまったからです。
バリカンのアッタチメントをつけ忘れるという、大ドジ、大へま、大ぬけさくです。
「ジョリ」っというより、「スジャッ」に近いですね。
あの瞬間の音は、一生忘れないでしょう。
そこで、皆様にあらかじめお伝えしておきたいことがあります。
女の子がいる飲み会などには、決して誘わないでください。
やけくそになって奇人変人を演じ、ご迷惑をかける恐れがあります。
例えあなたがバーや飲食店を開いても、
レセプションパーティーなどには決して誘わないでください。
華やかな空気に違和感が生じます。
結婚式なんて言語道断です。
ドレスコード以前の問題です。
お二人の門出を奇妙な部分ハゲではとても祝えませんし、
何より丸テーブルがNGです。
右に誰かがいる状況はいただけません。
さらに万が一2次会でビンゴに当たったりしたら大変です。
また、スタバやサードウェーブ系のオシャんなコーヒーショップには行けません。
お茶に誘っていただく際は、自動的に「ルノアール」になります。
もちろん右端の席になります。
お願いなので、僕の髪の毛が生え揃うまで、「梅雨」は明けないでください。
もし明けても、皆さんがSNSに投稿する際は、梅雨が明けてないふりをしてください。
ビーチや波打ち際での楽しそうな写真は禁物です。
河原でBBQをしたり、こだわりのかき氷屋さんに並んで食べたりしてはいけません。
そんなことをされたら、ストレスで10円ハゲになりそうです。
おっと、、、もうすでになっていましたね。
やかましいわ。
とにかく全員喪に服してください。
暑中お見舞い申しあげないでください。
何卒よろしくお願いします。
幡ヶ谷のアナ・ウインター
前を歩いていたお婆さんが、春の陽気に誘われたのか、
何やらルンルンと“鼻歌”を歌いはじめた。
むむむ。
それがもし若者であれば、“鼻歌”は、なんとなく想像がつく。
いっても“ピーボ・ブライソン”あたりが関の山である。
だがしかしだ。
世のお爺様お婆様方は、いったい全体、どんな曲の鼻歌を口ずさむ、
いや“鼻ずさむ”のだろう?
大変好奇心をくすぐられた僕は、もちろん後をつけた。
典型的な今風のシティーチャリンコに乗った30代の働き盛りが、
山高帽をかぶり、杖をついて鼻歌を歌う老婆の後を、
ひっそりと徐行して後を付けているのだ。
グリム童話顔負けの、
なんとも春らしい光景である。
こんな白昼堂々男に付けられているとは、思いも寄らないのであろう。
老婆はさっきにも増して意気揚々と、
ごきげんに腕なんか振りながら鼻歌を歌っている。
杖なんていつ投げ捨ててもいいのよと言わんばかりに。
さて、肝心なのは歌だ。
気づかれないよう、気配を消して耳を澄ますと、
「ふふふのふふふのふふふふふ~♪」
どこかで聞き憶えのあるメロディーが聴こえてきた。
「ふふふのふふふのふふふふふ~♪」
「ららららららららららららら~♪」
誰もが幼い頃に歌ったであろう“童謡”である。
なるほど、ご老人にとっての鼻歌ソングは(演歌でもなく軍歌でもなく)、
童謡らしい。(このお婆様だけかも知れないが)
「これが本当のJ-POPです」(92歳・主婦) なんつって。
ただ、なにかがおかしい。
彼女の歌には、桜が咲き始めた小春日和にはそぐわない
致命的な違和感をはらんでいた。
しばらく聞いてみると老婆は、あるワンフレーズだけに歌詞を当てはめ、
その歌を繰り返していることがわかった。
いや、正しく言えば、そのワンフレーズしか、歌詞を覚えてないのだ。
「ふふふのふふふのふふふふふ~♪」
「ららららららららららららら~♪」
この後である。
「たき火だ たき火だ 落ち葉たき~~~♪」
!!!!!!!!?
「たき火」の歌である!
この小春日和の4月初旬に、「真冬」の歌である!
老婆よ! 季節感季節感!
神よ、老婆に季節感を!
よっぽどおれが隣で「春が来た」でも口ずさんで、
春の童謡に無意識に誘導してあげようかとも思ったが、、、
いや、待てよ。。。。
もしかしたら彼女は、こう見えて、かつてファッション業界に
その名を轟かした“重鎮”かも知れない。
彼女はとうの昔に業界を引退し、
余生をつつましく過ごしている元カリスマ女性誌編集長。
普段はそんなことは隠して生きている。
だが、“職業病”だけはなかなか抜けない。
春夏シーズンには、次の秋冬、秋冬には、次の春夏と、
つい次のクールのことを考えてしまう。
今が春であれば、つい鼻歌も秋冬のものになってしまったのだ。
それなら合点がいく。
彼女が歌ったのは、ただのたき火ではない。「2016AW」のたき火なのである。
そんな僕の妄想をよそに、幡ヶ谷のアナ・ウインターは、
延々と「たき火」を熱唱し続けている。
このままだと、家に着くやいなや、実際にお庭でたき火をしてしまうかも知れない。
「春にたき火をする老婆」。
なかなかのシュールレアリズムである。
ただ、そんな彼女を“季節外れ”だと笑ってはいけない。
冬に半袖ワンピで撮影するモデルのように、季節を先取しているのだから。
それは、「2016AW」のたき火なのだから。